ご銘を読む~


茶席にある品々には、銘メイといわれる固有名詞がつけられています。

名前のようなものですが、そのものにふさわしい銘がつけられています。

不思議なもので名前がついた途端にそのものにはストーリィが生まれます。

ことばの持つ力です。言葉によって様々なイメージや感情が思い起こされます。
そして特別なものに生まれ変わります。



NLP、神経言語プログラミングと訳されています~ 
では、言葉と神経系統と脳内のプログラムはつながっているというのです。


例えば、お茶碗ですが、有名なものには、必ず銘があります。
そのものを彷彿とさせるものもあれば、連想させてくれるものもあります。


黒楽茶碗 銘禿 不審庵蔵
楽茶碗に禿(かむろ)という銘のお茶碗があります。
いかにも禿、おかっぱ頭のお稚児さんをイメージさせる形です。
そして利休はこの茶碗を手離さず手元に置いていた。という意味もあってこの名が付いたようです。
ご銘は、象徴でもあります。


言葉の後ろには様々なメッセージやその世界が広がってゆくのはみなさま良くご承知だと思います。ご銘はお茶碗だけではありません。


茶杓は、竹を削って作るお茶を掬って茶碗に入れる匙ですが、
その茶杓にも必ず銘がつけられています。
有名なものでは泪なみだというご銘の茶杓があります。
利休居士が、賜死の際に最後のお茶会で使うために自ら削ったものです。
後、古田織部守がもらいうけて泪というご銘にふさわしく、
外筒(茶杓を入れるケース)に小さな窓を開けて、位牌代わりに拝んだというのです。

茶杓 銘泪 徳川美術館蔵


そこにはストーリーがあります。
そしてその物語は語り継がれてゆくのです。


泪という銘を聞いただけでそのストーリーとは別の世界に思いをはせる方もおいででしょう。それを聞いたり見たりした人は、自分自身の感情や、思い、ドラマに思いを重ねるかもしれません。
そこには深い共感や、新たな思いも起きてくることでしょう。

何か人生で悲しみや苦しみに出会った時、

SHOCKショックをまず受けます。
そしてANGER怒りが起きてきます。
その後、RESISTANCE 抵抗をしますが、
やがて受け入れるACCEPTという過程で様々なことを受容してゆきます。

ここでもストーリーを聞くことで、私たちの深いところで共感が起き、
この方にもこんなことがあったんだとつながり、
受け入れるということが起きてくるとしたら、ご銘の持つ意味は、広がります。
  
       SARAモデル:Shock→Anger→Resistance→Acceptance


何か悲しいことや苦しいことがあった時、私たちは誰かにそのことを話したくなります。 


そして聞いてもらっただけで、ずいぶん楽になった。という経験がおありでしょう。


聞いてもらってうれしい。共感して頂いてうれしい。自分自身を受容してもらったという感覚は、私たちをまた前に勧めてくれます。
そしてご銘には、イメージをさせてくれる力もあるのです。
いつものお稽古の時にも、お客様役の方から、亭主は、ご銘を尋ねられます。


亭主役になった方は、その時その時の季節や行事、そのものを象徴させるようなご銘をお答えします。

細身美術館コレクション 

籬まがきに菊 
神坂雪佳 1866~1942 後輪の再来と言われた画家、意匠家


籬・まがきというご銘があります。
柴や竹などで目を粗く作った垣根のことですが、籬には菊の花がよく似合います。
ひなびたお庭。も連想できるでしょう。


季節は秋。
籬というご銘を聞くと、その言葉から連想する世界が主客の中に一瞬で広がります。


無意識の世界に遊ぶ瞬間です。
もしかしたら主客は違う場面を思い浮かべているかも知れませんが、
それぞれのイメージ、無意識の世界をそれぞれのやり方でしばし遊ぶのです。


言語を巧みに使うことは、私たちの無意識を日常の喧騒から切り離し、
トランス、変性意識状態へと誘ってくれるのです。



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和・美・場

日本人は古来より、その美しさを価値判断の基準としてきました。 潔さ、もののあわれ、滅びゆくものへの愛しみ、生まれゆくものへの祝福など、 在り方としての美しさを愛でてきたように思います。 そんな日本人が持って生まれた美しさへの思いを共有し、形にするところ~が、和・美・場~です。 和・美・場では、茶道を通して日本の美しさ、日本人の美への希求を分かち合いたいと思います。